書籍「
ストーリーが世界を滅ぼす―物語があなたの脳を操作する」を読了。
最近AmazonのPrime Readingで無料の本ばかり読んでいたんですが、ある方がお勧めしていた本書を思わずポチっと衝動買い。
物騒なタイトルですが、その名の通りこちらで語られるのは「物語」。人間は現実社会に向き合う際、複雑な現実を鋳型に嵌めて単純化して判断したがる生き物であると著者は主張します。その鋳型が物語。典型的なのが、悪者、虐げられる人、英雄という三者の図式。そしてその物語を信じた人は一貫性と秩序を守るため必死でそれを守るというのです。なぜ、キリスト教などの世界宗教が爆発的に普及したのか。そしてなぜ、この21世紀の現代社会において荒唐無稽とも思える陰謀論や地球平面説を信じる人がいるのか?物語は、それらの問いへの答えでもあります。
象徴的な一文がこちら。
「とりわけテレビは人々をゾンビ化し洗脳して中流白人の慣習に染めると言われた。批判した人々の懸念が間違っていたわけではない。彼らにはそれに取って代わるテクノロジーが輪をかけて悪質である可能性を見抜けなかったのだ。」
昨今、トランプを支持する人がいたり、陰謀論にハマる人が目立つようになり「人類全体の知能が低下しているんじゃないか」と個人的に懸念していたことがあるのですが、その現象の理由が見事に説明されているように思えました。現代社会において、物語を形成するのは主にインターネットであり、特にSNSが元凶であると。SNSの
エコーチャンバー効果などの副作用は指摘されて久しいですが、まさに言い得たり。上記の引用の通り、保守やリベラルを問わず極端な持論を持つ人の多くは従来のメディアである新聞やTVを嘘っぱちだと主張し、インターネット上の胡散臭いブログ等の「信じたいもの」だけを盲目的に信じています。
本書が公正なところは、特定の立場だけでなく著者自身の立ち位置であるリベラルをも物語の影響を受けていると看破しているところです。学者などの知識人にリベラルが多いのは統計的な事実だそうです。私自身もリベラル寄りの考えなので、そりゃマトモの人なんだからそうなるでしょと擁護したくなるんですが、学術界ではリベラルに反する意見は叩かれ排除される傾向があるという事実を知りハッとしました。
そして罪を憎んで人を憎まずというか、極端な物語に支配されてトンデモ主張をしている人は悪人ではなく本質的には無辜の人であり、物語を信じこまされた憐れな被害者であると述べます。対立を煽るのではないスタンスが素晴らしい。
ただし、物語を意識的に悪用しているトランプに至っては徹頭徹尾ボロクソに書いています。名前を書くのも憚られるということで本書ではトランプの名前は使われず「デカメガホン」という表現が使われています。個人的には痛快でした。ああいう存在は民主主義特有のバグであり、人類社会における癌細胞だと思います。世界中で、第二、第三のトランプが台頭しているポピュリズム跋扈の時代にあって、本書のような冷静な分析が多くの人に共有されることを願ってやみません。

posted by Touchy at 23:36
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