2024年09月06日

両利きの経営

両利きの経営」読了。
実際に読んだのは結構前なんですが、勤め先のマネジメント層を中心に「知ってて当然」のムードがあったのでAmazonセールの時に購入しました。
新しい事業を生み出す「探索」と、現在の事業を洗練していく「深化」。この二つは企業にとっての生命線でありながら両立することが困難なことが知られていますが、本著はタイトルの通り、それをやっていこうじゃないかというものです。しかし、探索に求められる組織体制および文化と、進化に求められるそれは正反対に近いという悩ましさ。漸進的な改善を得意とする企業ほど非連続的なイノベーションが苦手であることも過去の事例や実体験として知られています。
新規事業を見つけて発展させる「アイディエーション」、それを市場で検証する「インキュベーション」、そして成長を支援する「スケーリング」。これらが成り立って初めて新規事業は成功すると筆者は説きますが、途中のステップでフェードアウトすることもしばしば。
この本は、これさえ読んだら両利きの経営ができます!という簡単かつ強力な処方箋が紹介されているわけではなく、押さえるポイントを明らかにしつつ、それらが如何に難しいかということを滔々と紹介されているように感じました。それは私の先入観がそうさせたのかもしれません。「まぁそうだよね、でも難しいよね」という斜に構えた態度は良くないですね。私の乏しい社会人経験では正直ピンと来なかったのですが、経営者クラスの方になると目から鱗なんですかね。本著で紹介されているイノベーションストリームなんかも色んな会社でやってたりしますし。
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2024年09月01日

銃・病原菌・鉄

最近、記憶力の衰えを感じています。
子供の頃、父親と一緒に映画を観ることがよくありました。時々、映画を観終わった後で父がおもむろに「これ前に観たわ」と呟くことがあったのですが、その度に「そんなん絶対ありえへん」と思っていました。ところが、最近は似たようなシチュエーションを自身で体験しており、あぁこれだったのか…と思い至っております。ということで、読んだ本や観た映画は極力レビューの残しておこうと思った次第です。前置き終わり。

書籍「銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎」を読了。なぜ、現代の社会では国や地域によって発展の度合いが異なるのか?なぜアフリカや東南アジアの国々が覇権を取ることがなく、欧米諸国が隆盛を極めているのか?それらの問いに対して「環境」が如何に文明に影響を与えたのかを解き明かしながら、1万3000年の歴史を400ページに詰め込んだ大作です。文明の曙から現代まで凄まじい筆致で書ききった「サピエンス全史」に感銘を受けた経験があるので、ついついそちらと比べてしまいますが、全史は本著の17年後に執筆されたものと考えると凄さを感じます。
タイトルは少し歴史をかじった人ならピンと来ると思いますが、「大航海時代」に世界各国を侵略したヨーロッパ人が持ち込んだ「道具」であります。最近コロンブスをネタにしたMVを作った某人気バンドが炎上していましたが、本著を先に読んでいなかったであろうことが非常に悔やまれます。

本著の要点をA4サイズの原稿用紙1枚にまとめることはたやすいのですが、そこから得た情報と、本著を隅から隅まで読了した後に得られるものは雲泥の差があると思います。なぜなら本筋から展開される枝葉の部分にも大きな気付きが散りばめられており、それらをいちいち「ほ〜」と感心しながら読めるからです。例えばある時期までは文明のトップランナーの座が揺ぎなかった中国が、なぜ近代に入るまえに急にペースダウンして欧米の後塵を拝したのか?など。ネタバレはしませんが、なんとも納得の理由です。
歴史が好きな人にはオススメ。

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posted by Touchy at 23:40 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍

2023年12月09日

ストーリーが世界を滅ぼす

書籍「ストーリーが世界を滅ぼす―物語があなたの脳を操作する」を読了。
最近AmazonのPrime Readingで無料の本ばかり読んでいたんですが、ある方がお勧めしていた本書を思わずポチっと衝動買い。

物騒なタイトルですが、その名の通りこちらで語られるのは「物語」。人間は現実社会に向き合う際、複雑な現実を鋳型に嵌めて単純化して判断したがる生き物であると著者は主張します。その鋳型が物語。典型的なのが、悪者、虐げられる人、英雄という三者の図式。そしてその物語を信じた人は一貫性と秩序を守るため必死でそれを守るというのです。なぜ、キリスト教などの世界宗教が爆発的に普及したのか。そしてなぜ、この21世紀の現代社会において荒唐無稽とも思える陰謀論や地球平面説を信じる人がいるのか?物語は、それらの問いへの答えでもあります。
象徴的な一文がこちら。
「とりわけテレビは人々をゾンビ化し洗脳して中流白人の慣習に染めると言われた。批判した人々の懸念が間違っていたわけではない。彼らにはそれに取って代わるテクノロジーが輪をかけて悪質である可能性を見抜けなかったのだ。」

昨今、トランプを支持する人がいたり、陰謀論にハマる人が目立つようになり「人類全体の知能が低下しているんじゃないか」と個人的に懸念していたことがあるのですが、その現象の理由が見事に説明されているように思えました。現代社会において、物語を形成するのは主にインターネットであり、特にSNSが元凶であると。SNSのエコーチャンバー効果などの副作用は指摘されて久しいですが、まさに言い得たり。上記の引用の通り、保守やリベラルを問わず極端な持論を持つ人の多くは従来のメディアである新聞やTVを嘘っぱちだと主張し、インターネット上の胡散臭いブログ等の「信じたいもの」だけを盲目的に信じています。

本書が公正なところは、特定の立場だけでなく著者自身の立ち位置であるリベラルをも物語の影響を受けていると看破しているところです。学者などの知識人にリベラルが多いのは統計的な事実だそうです。私自身もリベラル寄りの考えなので、そりゃマトモの人なんだからそうなるでしょと擁護したくなるんですが、学術界ではリベラルに反する意見は叩かれ排除される傾向があるという事実を知りハッとしました。

そして罪を憎んで人を憎まずというか、極端な物語に支配されてトンデモ主張をしている人は悪人ではなく本質的には無辜の人であり、物語を信じこまされた憐れな被害者であると述べます。対立を煽るのではないスタンスが素晴らしい。
ただし、物語を意識的に悪用しているトランプに至っては徹頭徹尾ボロクソに書いています。名前を書くのも憚られるということで本書ではトランプの名前は使われず「デカメガホン」という表現が使われています。個人的には痛快でした。ああいう存在は民主主義特有のバグであり、人類社会における癌細胞だと思います。世界中で、第二、第三のトランプが台頭しているポピュリズム跋扈の時代にあって、本書のような冷静な分析が多くの人に共有されることを願ってやみません。

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2019年06月09日

ホモ・デウス

ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来」を読了。
サピエンス全史」と同じく、歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリの筆によるものです。前作がかなり良かったので今作にも期待していたのですが、個人的にはちょっと散漫な印象を受けました。
「全史…」のほうは過去を紐解き、「ホモ…」のほうは未来の可能性を示すのが本旨なのですが、「全史…」ですでにお目見えになった内容のリプライズが結構な割合であり(必然性はあるのですが)、構成は少しだけ複雑になっているように思えます。私の読書スタイルが通勤中に少しずつ読むというものなので、悪くなった記憶力との相乗効果で脳内整理が追いつかず、よけいに散漫に捉えられたのかもしれません。
しかし、個人的には最終盤のくだりで一気に腑に落ちました。なるほど!と。
非情とも思える予測可能な未来に対して、判断の余地を残す。さすが歴史学者的なアプローチだなと思いました。ぜひ多くの人にも読んでいただきたいです。


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2019年04月22日

こわいもの知らずの病理学講義

こわいもの知らずの病理学講義」を読了。

そもそも病気とは?というレベルから、癌の機序に至るまで、素人でも分かりやすくかつ面白く解説してくれます。身内が数度の癌や悪性リンパ腫に罹患しているので、他人事ではありません。私も長生きすれば間違いなくお世話になる予感なので、いざというときに慌てないように普段から理論武装しておきたいものです。トンデモ本や無責任な民間代替医療に惑わされることなく…。

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2019年04月06日

死すべき定め

死すべき定め――死にゆく人に何ができるか」を読了。

齢70を超え、低ナトリウム血症と悪性リンパ腫に罹患した(今は小康状態)父親が読んで「感銘を受けた」とのことで、借り受けました。米国の現役外科医による筆で、内容は高齢や病気によるターミナルケアにフォーカスしたものです。
ターミナルケア。超高齢化社会、二人に一人の癌罹患率などを踏まえると、誰にとっても他人事ではなく、誰もが目を背けたくなる将来の懸念事項です。「日常生活が送れなくなったら老人ホームに行けばいい」というレベルで気楽に考えていましたが、これを読むと考えが変わります。人生観が変わるというと若干大袈裟ではありますが、個人的にはそれに近いものがありました。「どう生きるか」ということは「どう死ぬか」ということと表裏一体であり、死から逃げるのではなく、向い合うことで生を充足させることができるのだと改めて思いました。良書。


 
posted by Touchy at 13:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍